居間の文庫本棚の、二段目・右から7番目。
「世界の名探偵5 エラリー・クイーン」エラリー・クイーン 堀内一郎訳 岩崎書店 2001年2月15日 1刷 1300円
年少ものである。これは、船橋の花屋に勤めていたとき、昼休みに船橋西武にふらっと入って買ったと記憶している。
収録作品は、
「七匹の黒ネコの冒険」
「告げ口ビンの冒険」
「死んだネコの冒険」
以上、3編。
少年少女に、優れたミステリを読み、好きになってもらうべく企画された本だと思うのだが、作品セレクトがそれにふさわしいか、はなはだ疑問である。
特に、クイーン作品として人気が高いとか、クイーンらしさ満開、というような作品とは言えない3編だと思うのである。
「神の灯火」など、選べなかったものだろうか?
一編の長さとか、もしかしたら版権の問題とかあったのかもしれないが、それにしても微妙なセレクトである。特に、後の二作のセレクトは、選んだ人にゆっくり話を聞きたいくらいだ。
だって、「告げ口」と「死んだネコ」は、クイーンの聖典には数えられていないものなのだ。(ラジオドラマのノベライゼーションである)
飯城勇三氏によれば、「エラリーが、女性パートナーとともに事件解決する作品を選んだらこうなったのでは? その方が少年少女読者に受け入れられやすいのかも」とのことだ。ホントにそうなんですか? 岩崎書店さん。
ところで、私はこの本に、二箇所誤訳があることを発見している。
「死んだネコ」に、ハロウィン・パーティの装飾に「ウスベニタチアオイ」が使われている、との訳文があるのだが、これは原文では「marshmallow」である。
「marshmallow」って、みなさんご存知の食べ物の名であることにお気づきだろうか? スペルを見れば、一目瞭然。「マシュマロ」のことなのだ。
花関係の仕事をしているため、私は多少植物に詳しく、そのため知っているのだが、marshmallowは、本来はウスベニタチアオイを指す。日本の花関係者は、ウスベニタチアオイを「マーシュメロウ」ということはあるが、「マシュマロ」と言うことは無い。(紛らわしいから)
食べ物のマシュマロは、元はマーシュメロウの根のエキスを使って固めていたそうで(今はゼラチンで固めてる)、そこからmarshmallowと名づけられたのだそうな。
だから、marshmallowを訳す場合、「食べ物のマシュマロ」でも「ウスベニタチアオイ」でも、両方正解ではある。
しかし、ハロウィン・パーティーの装飾で、マシュマロを飾ることは一般的だが、ウスベニタチアオイを飾るなんてことは、私は聞いたことが無い。
つまり、訳として、ここは明らかに「マシュマロが飾ってある」とすべきである。
ま、重箱の隅みたいな誤訳だから、もちろんストーリーには関係しない。
もう一つの誤訳も、同じく「重箱の隅」だが、これもちょっとおかしな誤訳なのである。
「告げ口」の冒頭で、クイーン警視が「ラ・グリップ夫人」をもてないしている、との文があるのだが、ラ・グリップ夫人の原文は「Madame La Grippe」である。
grippeとは、インフルエンザのことだ。「マダム・ラ・グリップ」と、あたかも人名みたいに書いているが、意訳するなら「風邪子さんのお相手をしてる」みたいな感じで、要するに「警視はインフルエンザにかかってます」という意味の文なのである。それを、居もしないラ・グリップ夫人をお招きしているような訳になっているのだ。
恐ろしいのは、謎のラ・グリップ夫人を捏造しても、物語に何の影響も無いことだ。
ラ・グリップ夫人は、たった一行にだけ登場して、さらーっと忘れられていく。本職の訳者さんが気づかないのも無理ないような文なのである。
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