居間の文庫本棚の二段目・右から12番目。
「エラリー・クイーン論」飯城勇三 論創社 2010年9月30日 初版 3000円
あるスジより頂戴した。
400ページ弱の単行本が、丸々一冊エラリー・クイーンの評論という、私にとっては大ご馳走のような本である。
私は、このような本が日本で出版される日が来るとは、正直思っていなかった。
ミステリの評論自体は、何も珍しいものではない。しかし、ある一人の作家を(クイーン、二人だけどね)、それも海外の作家を、単品で取り上げた評論というものは、意外に無いのである。「紹介本」ならば、無いでもないが、濃ゆい評論をぎっちり詰め込んだ一冊というものは、クリスティでさえ無いんじゃないかな? そういう意味では、私にとっては、出版自体が大事件だった。
クイーンファンの私には、心から面白い読書だったが、これは誰にでもすすめていい本なのだろうか? とりあえず……クイーンを読んでない人にすすめるのは、やはりよろしくないのだろうか。ネタバレ満載だしなあ(章の頭に、ネタバレする作品名を挙げてあります)。でも、自分が今頃高校生くらいだったとして、クイーンを読みきっていなかったとしても、書店で本書を見つけたら、きっと読んじゃうだろうと思う。
そうやって、読めば読んだで、クイーンを制覇していなくても、楽しい読書にはなるはずだ。飯城氏の文章は、なぜだか知らないが、不思議な余裕を持っていて(私は「人を門前払いしない文」と言っている)、読み物として面白いのである。思うに、本書の内容を、文を難しくするやつが書いたら最悪である。非常に丹念に裏づけを示しながら書いている文なので、ヘタをすると「うるさい!」と思われる文になる危険が大きいと思う。(私は以前、佐野洋の「推理日記」を読んで、「うわ~、うるさい!」と思ったことがあり、本書がそうでないのは、まったくありがたい)
特に、一番キケンなのが、第二部の「ギリシア棺の謎」論である。ミステリがあまり好きじゃない人が読んだら、「そんなことまで考えんでも……」と思われるかもしれない(しかし、飯城氏がそんなことまで考えるのは、結局クイーンがそんなことまで考えているからなのだが)。
本書の言わんとするところは、序章からストレートに示されている。クイーンが真に目指したものは何なのかということに、こんなにシンプルに迫った人も珍しいと思う。クイーンは、迫ってみるべきポイントがたくさんあるので、核心に迫ってみることを、みんなうっかり忘れてたのかなあとすら思える。
そして、一言で言い切ることもできる結論のために、検証するべきネタがこれだけあるクイーンの豊かさに感嘆するし、これだけ検証した人にも感嘆する。要するに、評論する方もする方なら、される方もされる方だ、という感じである。ここまで来たら、更に評論を突き詰めて、第二弾を出していただくしか道はあるまいと思う。(読む方も読む方なので、お待ちしています)
コメント