居間の文庫本棚の、上段右から14番目
「シャム双子の謎」エラリー・クイーン 井上勇訳 創元推理文庫 1980年10月15日 43版 (カバー欠にて定価不明)
クイーンの国名シリーズの中では、犯罪の起こる状況が最もドラマティックであり、かつ怪奇趣味があり、特異な一編である。
犯罪の現場は、山火事に囲まれた山の上。旅行中だったクイーン父子が、たまたま火に追われて逃げ込んだ屋敷で、殺人事件が起こるのだ。
ぐるりを火に囲まれているので、要するに誰も現場から離れることはできない。「犯人は……この中にいます」が大前提なのである。
この作品には、クイーンのお気に入りテーマ「ダイイングメッセージ」も、印象的に登場する。
いやあ、この作品を読んだのは、10歳くらいの頃だったと思うが、私はトランプをずいぶん破いたものだ。
死体の手には、引き裂かれたトランプが一枚握られており、それが犯人を示しているのである。そのトランプが、ご丁寧に指紋付きで描かれたイラストが挿入されており、エラリーが自分でトランプを破いて実験するシーンがあるのだ。
トランプ破く→片方の切れ端を丸めて→捨てる→どっちの手に切れ端が残る?という実験である。
私、自分も破いてみる誘惑に、抗えなかったのねえ。今思うと、もったいなかったね。
作品のタイトルにもなっているシャム双子も、もちろん登場する。クイーンにしては怪奇趣味な作品といわれているが、私が思うに、クイーンの怪奇性なんて、フリカケみたいな怪奇性である。ちょこっと、彩りにしている程度のものだ。
シャム双子が、正式に登場するまでは、散々引っ張って怪しい感じをかもし出してはいるが、いざ登場したら、双子君たちは元気な明るい子供さんであって、彼らの歩き方は「優雅だ」と形容されているくらいなのだ。
クイーンは、本当の意味の怪奇性を突き詰められる作家じゃなかった。
クイーンの優れた長編(特に後期の長編)は、重たく、暗い悲劇性のあるものが多い。暗いものを描く作家と、怪奇なものを描く作家は、かぶることが結構多いが、クイーンはそうじゃなかったのである。
例えば、同じものをカーが描いたなら、この程度の怪奇で済むはずは無いのである。乱歩先生でもそうだろう。にこやかなシャム双子が現れて「はじめまして」と言うなんて、絶対ないない!
しかし、この作品が、クイーンとしては特異な設定であることに間違いは無い。
①迫り来る火の手。
②そ知らぬ顔をして暮らす人殺しが、同じ屋根の下にいる!
③貴婦人の涙
④引き裂かれたトランプ
⑤体のくっついた双子の少年
⑥山奥で行われていた謎の動物実験
⑦山のふもとから、「消火は絶望」との宣告
⑧煙が侵入する室内で始まる謎解き
…これがドラマティックでなくて何であろうか。
この作品は、犯人像もクイーンとしてはちょっと異色だ。この手の人物が犯人だったクイーンの長編作品は、はほかに一編も無いのだから。
コメント