居間の文庫本棚の、三段目・右から32番目。
「妖魔の宴 ドラキュラ編2」菊池秀行監修 竹書房文庫 平成4年12月6日 初版 580円
ドラキュラ大好き作家:菊池秀行監修の吸血鬼アンソロジー。
収録作品は、
「感染」ジャネット・アシモフ
「かわいいベイビー」カレン・バローズ
「吸血鬼の夢」ディック・ロティ
「杭なき人生」ケビン・J・アンダーソン
「恐怖の名前」ローレンス・ワット・エヴァンズ
「暗い夜明け」W・R・フィルブリック
「ロス・ニーニョス・デ・ラ・ノーチェ」ティム・サリヴァン
「小夜曲」マイク・レズニック
「ロキュラダおじさん」ジョン・ラッツ
「時の先端」ジョン・グレゴリー・ベタンコート
「夜の子供たち」クリスティン・キャスリン・ラッシュ
以上、11編。
一番の気に入りは「杭なき人生」。(タイトルもいい!)
理由は、私が、小説のドラキュラも好きだし、映画のドラキュラも好きだし、実在したドラキュラのモデル=ブラド・ツェペシュも好きだからだ。
「杭なき人生」の主人公は、ユニバーサルが製作した「魔人ドラキュラ」で、ドラキュラ役を勤めたベラ・ルゴシ。
ルゴシが、ドラキュラの撮影中に、痛み止めのモルヒネでトリップし、時を越えてブラド・ドラキュラと会見するというものだ。
ベラ・ルゴシは、ハンガリー生まれの俳優である。だから、ブラドとハンガリー語で会話できるのだ。
元々、ルゴシがドラキュラ役に選ばれたのは、彼なら東欧なまりの英語がイケるからである。
厳密に言えば、ドラキュラの撮影当時、ルゴシは英語を「話せる」というレベルではなかったらしい。英語の台詞を、音だけで丸暗記して演じていたそうである。「ヘルシング……君は頭のいい男だ。一度も死んだことがない人間にしては」という、あの見せ場の台詞も、意味分からずに暗誦していたということになる。すげえなあ。
ブラド将軍は、「串刺し公」として名高い人だ。敵国民だろうが自国民だろうが、気に入らん人間を処刑しては、焼き鳥みたいに串にざくっと挿し、その辺に立てて見せしめにするのが得意だった。しかも、その数が半端じゃない。ワラキアに攻め入ってきたトルコ兵(大躍進時代のトルコ兵が!)が、串刺し死体が林みたいに立っているのにおののき、思わず退却しようとしたほどの数である。
ルゴシは、その歴史を知っているから、トリップして出会ったブラドに、「もう殺すな」と進言する。
ストーカー以前のドラキュラと、ストーカー以後のドラキュラ二人が対話し、最後には何かを分かり合って別離をむかえるところがいい。
相当ドラキュラを、それも総合的な意味でのドラキュラを愛していないと、こういう小説は書けないように思う。
管理人の別ブログに、「杭なき人生」の記事があります。

以下は余談。
ルゴシは、ドラキュラの成功の後、役に恵まれず、役者としては不遇な生涯だった。亡くなったときには、彼の遺言により、ドラキュラ伯爵の衣装で棺に入れられ、葬られた。
吸血鬼ファンは、ふと夢想する。
彼の墓の近くには、小さな穴が開いているのではないか?(ルーマニア伝承)
深夜、墓の中から不審な物音が聞こえはしないか?(これもルーマニア伝承)
もしも、彼を墓から出さない対策を講じるなら、墓の中に、結び目のたくさんついた縄や、穀物のつぶを大量に入れるのがいいだろう。(すべてルーマニア伝承)胸に杭を刺すのは、多分、死体損壊で捕まるだろうから。
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