生者と死者と

居間の文庫本棚の、三段目・右から2番目。

「生者と死者と」エラリー・クイーン 井上勇訳 創元推理文庫 ページ欠にて刊行年不明 カバー欠にて定価不明

エラリー・クイーン作のマザーグース殺人ものである。
この本は、母の本棚から盗んでいただいてきた。最終ページに、母の旧姓の印が押してある。茶色く焼けて、カバーは吹っ飛び、あとがきの後半ページから、数ページが抜け落ちてしまっている。
「茶色い焼け」以外は、すべて私の仕業だ。
小学校5年生くらいから、大人になるまでずーーーっと愛読した結果、
「最終的に、本ってこんな姿にまでなるのねえ」
みたいな状態になってしまった。(表紙と本文は糸一本でつながってプラプラしている。修繕してやれ!)

この本は、私には思い出深い。
クイーンに初めて出会ったのは、この作品なのだ。
何が驚いたと言って、主人公と警察が、「解決編」に至るまでに、様々な推理を、逐一読者に披露してくれるサービスぶりに、ものすごく驚いた。(ホームズも、明智も、こんなことまでしてくれなかった)
クイーンは、可能性を消去するお手本を、非常に詳しく読者に示すのである。エラリーが、「君もこっちに来て推理すればいいじゃない。僕と一緒ならばできる」と言ってくれているも同然である。そうだ、これがミステリだ。本当に出会いたかったミステリはこれだ、と思った。
この瞬間に、ホームズもポアロもブラウン神父も、私にとっては前座に成り下がった。
そうとも、私は、最初からここに来るためにのみ歩いたのだ、と思った。幸せな、幸せな記憶である。
小5の少女の目は、恐ろしいほど的確だったといわねばならない。
なぜなら、「おや、クイーンすらも前座だったか」と思わせるミステリ作家に、私はついに出会えずに今日を迎えているのだから。

私は、クイーン作品については、たまには「聞いたような口を叩く」ことがある。
しかし、「生者」については、それは無理だ。
「好きです~。大好きです~。初めて読んだときから好きです~」
これ以外のことは一つも言えない。

私はこれでも、世間的には「読書家」の部類に入ると思っている。その人間が「好き」以外に批評の術を無くすのである。初クイーンがどれほどの衝撃だったかを察していただきたい。

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