居間の文庫本棚の、二段目・右から3番目。
「エラリー・クイーンの世界」フランシス・M・ネヴィンズJr 秋津知子・他訳 早川書房 1980年4月10日 初版 1500円
エラリー・クイーンの評伝である。
ここ数年、クイーン関係のガイド本の出版が非常に充実している。
しかし、ちょっと前までは、まともなクイーン研究本のたぐいは、「エラリー・クイーンの世界」か、「エラリー・クイーンとそのライヴァルたち」くらいしかなかったのである。
小学生の頃から、クイーン大好き人間だった私は、評論・研究・評伝の類が死ぬほど出ているドイルが心からうらやましかった。クイーンのことを、もっともっと知りたいと思う欲求は、あちこちから細切れに集めてきた情報で慰めており、図書館で「エラリー・クイーンの世界」を初めて発見したときには、文字通り狂喜乱舞したものである。
そんなに喜んだのに、私がこの本を実際に手に入れたのは、そんなに昔の話ではないのだ。多分、入手して、まだ10年経っていないはずである。
実はこの本、私が自分で購入したものではない。ある筋からいただいたものである。私がこの本の「本物」を手に入れるのが夢だとわめいているのを聞きつけた方から届いたのだ。
この本の「本物」ってなに?と、今思われませんでした?
「本物」が欲しい、ということは、逆に言うと「偽物は持っている」ということになりますわね。
そのとおり。
私は、「エラリー・クイーンの世界」の偽物を、子供の頃から30過ぎるまで持っていたのだ。
子供の頃、図書館で「エラリー・クイーンの世界」の存在を知った私は、さっそく書店に注文を出したのだが、冷たく返ってきた「品切れ」という言葉にブチ切れ、図書館の「EQの世界」を全文筆写する暴挙に出たのだ。確か、3週間ほどかかって丸ごと書き写し(奥付とか、写真のマルCとかも全部)、自分だけの「EQの世界」を手に入れて満足したのだ。量は大学ノート5冊におよび、「限1 エラリー・クイーンの世界5分冊 肉筆写本」などと言って喜んでいた。これは、エラリー・クイーン・ファンクラブの例会にも何度か持っていったので、見覚えておられる方もいるかもしれない。
つわもの揃いのクイーン・ファンクラブにおいてさえ、「全文筆写」の行為は衝撃だったらしく、いまだに「EQの世界」を写経した人、と紹介されたりするのだが、あまりの「衝撃」が、「哀れ」に変わった方がいらしたようで、あるとき、私の手元に本物の「EQの世界」が届くことになったのだ。
私は、やっとめぐり合った本物の「EQの世界」を大事にしていて、折り目も、書き込みも遠慮し、腰巻もはずさぬままとってある。
千葉県の千葉市にお住まいの方で、「東部図書館」に行かれる機会のある方は、気が向いたら、蔵本の「エラリー・クイーンの世界」を手にとってごらんください。何箇所か、鉛筆の芯で黒く汚れた指の跡がついているのを見つけられることだろう。
ほかの誰でもなく、私が「写経中」につけた跡です。

コメント